令和8年度(2026年度)の調剤報酬改定は、中央社会保険医療協議会の「個別改定項目について(答申)」に基づき、薬局の機能と役割に大きな変革を求める内容となっています。本稿では、答申の原文データを基に、今回の改定の全体像と特に影響の大きい変更点を整理し、解説します。
1. 調剤基本料の見直し
「患者のための薬局ビジョン」策定から10年が経過した現在の保険薬局の実態を踏まえ、保険薬局が立地に依存する構造から脱却し、薬剤師の職能発揮を促進する観点から、調剤基本料が見直されます。
調剤基本料の点数変更
調剤基本料は全区分で引き上げが行われます。調剤基本料1は45点から47点に、調剤基本料2は29点から30点に引き上げられます。調剤基本料3についても各区分で1〜2点の引き上げが行われます。
| 区分 | 改定後 | 現行 |
|---|---|---|
| 調剤基本料1 | 47点 | 45点 |
| 調剤基本料2 | 30点 | 29点 |
| 調剤基本料3 イ | 25点 | 24点 |
| 調剤基本料3 ロ | 20点 | 19点 |
| 調剤基本料3 ハ | 37点 | 35点 |
新規開局薬局への距離要件導入
政令指定都市等で既存の薬局から水平距離500メートル以内に新規開局する場合、処方箋集中率が85%を超え、かつ月の処方箋受付回数が一定数を超える薬局は、調剤基本料2の算定対象となります。これは、門前薬局の新規出店を抑制し、地域に根差した薬局の展開を促す施策です。
「門前薬局等立地依存減算」の新設
200床以上の病院近隣や医療モール内に新規開局する場合、「門前薬局等立地依存減算」が新設されます。具体的には、令和8年4月1日以降に保険薬局の指定を受けた薬局のうち、200床以上の保険医療機関と不動産取引等の特別な関係がある場合、または医療モール内に所在する場合に、所定点数から15点が減算されます。特定の医療機関への立地依存度が高い薬局の評価を厳しくし、地域医療への貢献を促す目的です。
2. 特別調剤基本料Aの見直し
いわゆる「敷地内薬局」に適用される特別調剤基本料Aについて、健康保険事業の健全な運営の確保の観点から見直しが行われます。
改定案では、特別調剤基本料Aの点数は5点に据え置かれますが、適用範囲の見直しが行われます。一方で、へき地など医療資源の乏しい地域(地方公共団体の所有する土地に所在する診療所の敷地内で、水平距離4キロメートル以内に他の保険薬局がない場合)では例外的に調剤基本料1の算定が認められ、地域医療の確保にも配慮されています。
また、保険薬局と同一敷地内においてオンライン診療受診施設を設置する場合、当該保険薬局は特別調剤基本料Aを算定する旨の規定が新設されます。特別調剤基本料Aを算定する薬局は、各種加算について所定点数の100分の10に相当する点数での算定となります。
3. 地域支援体制加算の見直し(名称変更)
地域医療への貢献を適切に評価するため、地域支援体制加算の名称が「地域支援・医薬品供給対応体制加算」に改められ、施設基準と点数が大幅に見直されます。現行の4区分から5区分に再編されます。加算1は医薬品の安定供給に資する体制に係る新たな評価として新設され、後発医薬品調剤体制加算は廃止されます。
| 改定後の区分 | 改定後 | 現行の区分 | 現行 |
|---|---|---|---|
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算1 | 27点 | 地域支援体制加算1 | 32点 |
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算2 | 59点 | 地域支援体制加算2 | 40点 |
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算3 | 67点 | 地域支援体制加算3 | 10点 |
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算4 | 37点 | 地域支援体制加算4 | 32点 |
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算5 | 59点 | (新設) | — |
加算1は医薬品の安定供給を確保するための体制(後発医薬品の調剤割合85%以上等)を有する薬局に対する評価です。加算2・3は調剤基本料1を算定し、地域医療への貢献に係る体制・実績を有する薬局が対象です。加算4・5は調剤基本料1以外を算定する薬局も対象となります。
4. 調剤管理料の見直し
処方内容の薬学的分析、調剤設計等に係る評価として調剤管理料が見直されます。内服薬の調剤管理料は現行の4区分(7日以下4点・8〜14日28点・15〜28日50点・29日以上60点)から、2区分(28日分以上60点・27日分以下10点)に簡素化されます。また、調剤管理加算は廃止されます。
| 区分 | 改定後 | 現行 |
|---|---|---|
| 内服薬 イ 長期処方(28日分以上) | 60点 | 29日分以上 60点 |
| 内服薬 ロ イ以外(27日分以下) | 10点 | 7日以下 4点 / 8〜14日 28点 / 15〜28日 50点 |
| 1以外の場合 | 10点 | 4点 |
5. 重複投薬・相互作用等防止加算等の再編
かかりつけ薬剤師の推進並びに服用薬剤の継続的・一元的把握に基づく薬剤調整及び実効性の高い残薬対策を評価する観点から、重複投薬・相互作用等防止加算(残薬調整以外40点・残薬調整20点)は廃止されます。代わりに、以下の2つの新たな加算が新設されます。
調剤時残薬調整加算(新設)
残薬が確認された患者において、処方医の指示又は照会の結果に基づき、7日分以上相当の調剤日数の変更が行われた場合に算定できます。
| 区分 | 点数 |
|---|---|
| イ 在宅患者への処方箋交付前に処方医に相談した場合 | 50点 |
| ロ 在宅患者について調剤日数の変更が行われた場合(イを除く) | 50点 |
| ハ かかりつけ薬剤師が調剤日数の変更を行った場合(イ・ロを除く) | 50点 |
| ニ イからハまで以外の場合 | 30点 |
薬学的有害事象等防止加算(新設)
薬剤服用歴や電子処方箋の重複投薬確認等に基づき、処方医に対する照会(残薬調整を除く)の結果、処方に変更が行われた場合に算定できます。
| 区分 | 点数 |
|---|---|
| イ 在宅患者への処方箋交付前に処方医に相談した場合 | 50点 |
| ロ 在宅患者について処方に変更が行われた場合(イを除く) | 50点 |
| ハ かかりつけ薬剤師による照会で処方変更された場合(イ・ロを除く) | 50点 |
| ニ イからハまで以外の場合 | 30点 |
これらの新設加算は、薬剤師が処方内容を精査し、残薬調整や有害事象防止のために処方医と連携する対人業務を積極的に評価するものです。特に、在宅患者やかかりつけ薬剤師による対応はより高い点数で評価されます。
6. 吸入薬指導加算の見直し
保険薬局におけるインフルエンザ吸入薬指導について、慢性疾患と同様の服薬指導や曝露対策を実施している現状を踏まえ、吸入薬指導加算の要件と評価が見直されます。
改定案では、算定対象となる患者にインフルエンザウイルス感染症患者が含められます。現行では「喘息又は慢性閉塞性肺疾患の患者」に限定されていましたが、吸入薬の適応症全般(喘息、COPD、インフルエンザ)に対象が拡大されます。
算定可能な間隔は、現行の「3月に1回」から「6月に1回」に変更されます。点数は30点で据え置きです。
7. 服用薬剤調整支援料の見直し
ポリファーマシー対策の推進に向け、服用薬剤調整支援料2が大幅に見直されます。
| 区分 | 改定後 | 現行 |
|---|---|---|
| 服用薬剤調整支援料1 | 125点 | 125点 |
| 服用薬剤調整支援料2 | 1,000点 | イ 110点 / ロ 90点 |
服用薬剤調整支援料2は、現行のイ(110点)・ロ(90点)の2区分から1,000点の1区分に大幅に引き上げられます。改定案では、かかりつけ薬剤師(薬物治療に必要な研修を受けたものに限る)が、患者の服用中の薬剤を継続的・一元的に把握した結果、薬剤の調整を必要と認める場合に、必要な評価等を実施した上で処方医に文書を用いて提案した場合に算定できます。算定頻度は6月に1回に限り、かかりつけ薬剤師1人につき月4回までとなります。
8. かかりつけ薬剤師指導料の廃止と服薬管理指導料への再編
今回の改定で最も構造的な変更の一つが、「かかりつけ薬剤師指導料」(76点)および「かかりつけ薬剤師包括管理料」(291点)の廃止です。これらの評価は「服薬管理指導料」に再編・統合されます。
新しい服薬管理指導料では、「かかりつけ薬剤師が行った場合」(イ)と「それ以外の場合」(ロ)の2区分が設けられ、点数自体は同額(1は45点、2は59点)ですが、かかりつけ薬剤師による指導を明確に区別して記録する仕組みとなります。
新設される加算
- かかりつけ薬剤師フォローアップ加算(50点):かかりつけ薬剤師が、調剤後に電話等により服薬状況・残薬状況等の継続的な確認及び指導を個別に実施した場合に、3月に1回に限り算定
- かかりつけ薬剤師訪問加算(230点):かかりつけ薬剤師が患家に訪問して残薬の整理、服用薬の管理方法の指導等を行い、その結果を保険医療機関に情報提供した場合に、6月に1回に限り算定
かかりつけ薬剤師の施設基準の変更
かかりつけ薬剤師の要件も見直されます。主な変更点として、当該保険薬局への在籍期間が「1年以上」から「6か月以上」に短縮され、産前産後休業・育児休業・介護休業からの復職の場合は休業前の在籍期間を合算できるようになります。また、週の勤務時間が「32時間以上」から「31時間以上」に緩和されます。これらの変更は、かかりつけ薬剤師の担い手を増やし、普及を促進する狙いがあります。
9. 在宅医療における薬局の評価の充実
今後、在宅で療養する患者の増加が見込まれることを踏まえ、薬局における在宅医療提供体制の整備が推進されます。
在宅薬学総合体制加算の見直し
在宅薬学総合体制加算が大幅に再編されます。現行の加算1(15点)・加算2(50点)の2区分から、加算1(30点)と加算2(単一建物1人:100点、それ以外:50点)に変更されます。
| 区分 | 改定後 | 現行 |
|---|---|---|
| 在宅薬学総合体制加算1 | 30点 | 15点 |
| 在宅薬学総合体制加算2 イ(単一建物1人) | 100点 | 50点 |
| 在宅薬学総合体制加算2 ロ(イ以外) | 50点 | 50点 |
加算1の施設基準では、在宅訪問の算定回数が年24回以上から年48回以上に引き上げられ、より積極的な在宅医療への取り組みが求められます。加算2は新設の区分で、無菌製剤処理や麻薬調剤等の高度な在宅薬学管理の実績が求められます。
在宅患者訪問薬剤管理指導料の見直し
在宅患者訪問薬剤管理指導料について、算定する日の間隔を「6日以上」とする要件が廃止され、週1回算定可能となります。また、休日・夜間を含む開局時間外の調剤・訪問薬剤管理指導に対応できるよう、在宅協力薬局の情報を含め、夜間の連絡先を患者に知らせることが要件に追加されます。
医師と薬剤師の同時訪問の推進
在宅医療の質の向上を目的に、医師と薬剤師の同時訪問に係る評価が新設されます。在宅患者訪問薬剤管理指導を実施している患者に対し、医師の訪問診療に薬剤師が同行して薬学的管理を行った場合に算定可能となります。
10. 医療DX推進体制整備加算等の見直し
医療DX関連施策の進捗を踏まえ、調剤報酬における医療DX関連の評価体系が再編されます。
- 医療情報取得加算の廃止:調剤管理料の注6に規定されていた医療情報取得加算(1年に1回1点)が廃止されます
- 医療DX推進体制整備加算の改称:「電子的調剤情報連携体制整備加算」に改称され、現行の3区分(10点・8点・6点)から1区分(8点)に統合されます
- 電子処方箋による重複投薬等チェックを行う体制を有することが新たに要件に追加されます
電子処方箋システムの普及に伴い、薬局における電子的な情報連携の基盤整備が標準化されていく方向性が示されています。
11. 調剤報酬体系の簡素化
調剤報酬体系の簡素化に向けた大きな構造改革として、従来の「調剤料」が廃止され、新たに「薬剤調製料」が新設されます。
薬剤調製料は、内服薬・屯服薬・外用薬・注射薬・内服用滴剤の区分に応じた点数が設定されます。また、嚥下困難者用製剤加算や自家製剤加算、計量混合調剤加算は引き続き薬剤調製料の加算として位置づけられます。
さらに、服薬管理指導料において、在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定している患者への算定制限について、「4のロ又はハを算定する場合」の除外規定が削除され、臨時の投薬が行われた場合のみの例外に簡素化されます。特定薬剤管理指導加算1・2・3や吸入薬指導加算についても同様に、「4のロ又はハを算定する場合においては加算しない」という但し書きが削除されます。
まとめ
令和8年度の調剤報酬改定は、薬局経営に大きな変革を迫る内容となっています。主要な方向性は以下の通りです。
- 立地依存からの脱却:門前薬局等立地依存減算(15点)の新設、新規開局への距離要件導入により、門前型経営からの転換を促進。一方で調剤基本料は全区分で引き上げ
- かかりつけ薬剤師機能の再編:かかりつけ薬剤師指導料の廃止と服薬管理指導料への統合により、かかりつけ機能の普及と患者の選択を促進
- 対人業務の充実:調剤時残薬調整加算(30〜50点)・薬学的有害事象等防止加算(30〜50点)の新設、服用薬剤調整支援料2の大幅増点(1,000点)により、薬剤師の専門性を活かした業務を評価
- 在宅医療の推進:在宅薬学総合体制加算の大幅増点、医師との同時訪問の評価新設、訪問薬剤管理指導の算定間隔緩和により、在宅医療における薬局の役割を拡大
- 体系の簡素化:調剤料の廃止と薬剤調製料の新設、調剤管理料の4区分→2区分への簡素化、各種但し書きの整理により、算定構造を簡素化
- 医療DXの推進:電子処方箋の重複チェック体制の要件化、電子的調剤情報連携体制整備加算への改称により、デジタル基盤の標準化を推進
※ 本稿は「個別改定項目について(答申)」の原文に基づく解説です。最終的な改定内容は官報告示をご確認ください。